Technology
常温核融合技術の現在
常温核融合はどこで起きているのか?
次なる研究段階へ
核反応とナノ粒子は無関係
水野は当初、核反応はニッケルメッシュや蒸着したナノ粒子の中で起きていると推定していました。
しかし実験結果を検証・熟考するうちに、核反応にナノ粒子は全く関係ないとの結論に至ります。
では、そもそもどこで、どんな仕組みで、常温核融合は起きているのか?
劇的なパラダイムシフトを経て、水野の研究は次なる段階へと移行していきます。
常温核融合は
どこで起きているのか?
この謎は、ナノ粒子を全く使わない新しい炉の導入によって、ほぼ確定的に解明されることとなります。水野はナノ粒子の介在なしに、ステンレス合金で投入エネルギー量の約3.5倍という高い出力エネルギーが得られる炉を創り出します。
この成果は、ステンレス合金に施した特殊加工によるものでした。金属結晶格子内に常温核融合を起こす「サイト」を生成することに成功したのです。
結果的に、それまでより遙かに低コストで簡単に常温核融合炉が製造でき、しかも、投入エネルギー量の何倍もの高出力エネルギーを得ることが可能となりました。
産業用を視野に、
熱源炉の開発へ
次なる目標は、実際に暖房として使用できる10kWレベルの高出力熱源炉の開発でした。既に基本的な設計は完了し、2023年6月現在、この熱源炉は最終的なチェック段階に入っています。
常温核融合と
熱核融合との違い
ここで、常温核融合と熱核融合の違いについて見ておきましょう。
反応温度帯が異なる、
二つの核融合現象
常温核融合は200℃~1000℃で反応が得られるのに対し、熱核融合は1億度を超える超高温を必要とします。(常温核融合の名称の是非については様々な意見が聞かれますが、両者の温度帯の差を考え、「常温」と見なしています。)
反応する温度帯は異なりますが、常温核融合も熱核融合も、起きているのは同じ核融合現象だと推定しています。しかし、両者の炉の仕組みは大きく異なります。
熱核融合の炉の仕組み
熱核融合は真空に近い条件の下、1億度を超える高温で重水素をプラズマ化し核融合させる技術です。核融合が起きている太陽に比べ圧倒的に密度が低いため、より高温化する必要があるのです。
反応物質には、軽水素より反応が起きやすい重水素(二重水素および三重水素)が用いられます。重水素の原子核に存在する中性子が高速で運動することでエネルギーを放出します。「運動エネルギー」のままでは利用しにくいため、これを「熱エネルギー」に効率的に変換する「中性子ダンパー」とでもいうべきものが必要ですが、目下のところ実現の目処は立っていません。
高速な中性子は当たった物体を放射化、つまり放射性物質に変え、二次汚染します。推定では、同出力の核分裂原発と同程度の放射性廃棄物を生み出す可能性があります。
熱核融合はクリーンなエネルギーだと考える向きがありますが、実際は核分裂原子反応と同様、クリーン化の目処は全く立っていないことにも言及しておきます。
常温核融合の炉の仕組み
水野は、常温核融合現象が金属の結晶構造のクラック、つまり金属結晶格子の欠陥構造部分で起きていると推定しています。
金属内に浸透した水素原子は加熱により熱運動を起こし、互いに衝突します。金属結晶格子の構造欠陥部分という極小スペースで発生することで、衝突の確率が格段に高まり、効率的に常温核融合が起きると考えています。ナノ粒子も、超高温も、中性子の高速化も必要ないのです。
このような理解に基づき、金属結晶格子をマイクロ核融合炉と見なした常温核融合炉を製造。実際に過剰熱の生成に成功しています。
この反応には、さらに炭素や酸素、窒素といった別の元素が量子反応的に関与しているのかもしれません。それらの解明は、まだこれからです。原子核反応の謎への挑戦は続きます。